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私の恋に甘酸っぱさは必要おまへん

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お気に入りの喫茶店がある。

 

お気に入りと言っても、まだここに来るのは今日を含めて2回目だった。

たった2回で、まるで常連のような口ぶりで話しても良いものか?

と思うけれど、良い。

良いんだよ。

気に入っているのだからネ。

 

この喫茶店では、メニューに『マスター手製のシフォンケーキ』がある。

 

正直、シフォンケーキって私の中ではあまりトキメク存在ではなかった。

 

たとえばケーキの世界があったとして、そこでは人間社会と同じように、子ケーキたちが学校に通っているとしよう。

そうすると、私的・超・独断と偏見によるクラスカーストはこのような感じだ。

先に断っておくと、これは別にそのケーキの味の優劣とかではない。

単純に見かける頻度の高さや、食べたことが多いか少ないか、あとは個人の好みによるもの。

 

一軍に君臨するのは、

「ケーキの絵を描いてください」と言われれば、ほぼ確でほとんどの人がコレを描くであろうケーキ界の王者『ショートケーキ』。

いつまでも私たちの中にある子供ゴコロを”ぎゅっ…”と掴んで離さない、取り合い必至の魅惑の存在『チョコレートケーキ』。

頭頂部で存在感を示し、圧倒的華やかさを魅せる者。核(コア)に存在し、静かなる威厳を醸し出す者。栗の立ち居振る舞いによって食する者の感情を揺さぶる『モンブラン』。

あなただけは絶対に痩せないでください。ずっしり重ければ重いほど幸福度が高まる『ベイクドチーズケーキ』。

照り照りとしたフルーツは見た目にも美しく、フォークを刺した時のゴリッと感と、口に入れた時のサクッと感、満足度の畳みかけが尋常じゃない『タルト』。

これらは大体どのケーキ屋さんでも見かけるラインナップ。

 

続いて二軍は、

すっきりとした味わいとくちどけの良さで、”バイバイした直後なのに、またすぐに会いたくなる…”という、付き合って1~2ヶ月の恋人への感情を彷彿とさせる『レアチーズケーキ』。

ふっくらした見た目に心惑わされ、頬張ったが最後。調子が悪い日は胸焼けとの戦いが始まるが、やはり美味いものは美味い『シュークリーム』。

”能ある鷹は爪を隠す”とも言うように、一見シンプルだが断面で人を楽しませる天才。作る時の手間と、平らげられる時の呆気なさが割に合わなさ過ぎる『ミルクレープ』。

「意外と一番好きかも。」という、根強い人気を誇る大人のデザート。子供時代にコレを好きだと言えると、ちょっと厨二心を満たせる(かもしれない)『ティラミス』。

固め、柔らかめ、卵感強め、クリーム感強め…。「どこからでもかかってこいやゴルァ!」と言わんばかりの、無数の攻め方を知っている『プリン』。

 

ラストの三軍は、

単体で食べるには少し唾液が足りない。飲み物があってこそ本領を発揮してくれる、腹持ちの良さ抜群の『パウンドケーキ』。

フォークを入れた時の「シュワッ」という音が印象的。チーズとは思えない儚げな爽やかさと、「いや、やっぱりチーズ居るわ。」と最後にしっかり存在感を残していく、合コンで地味に一番強い奴のようなパフォーマンスを見せる『スフレチーズケーキ』。

パリパリ感に全振りしすぎて、時には食べやすさ度外視のものも数多。ゆっくり席について楽しみたいデザートランキングベスト3に入る『ミルフィーユ』。

味のバリエーションが豊富で、見た目も焼き方やデコレーション次第で何通りにも変えられる、まさにケーキ界のカメレオン『ロールケーキ』。

 

そして、「ホイップクリームとマブダチな素朴ケーキと言えば?」という街頭アンケートを取ってみれば、恐らく1位か2位に輝きそうな『シフォンケーキ』。

 

かなり前振りが長くなってしまったが、そんなシフォンケーキをお店のメイン的な位置で推している喫茶店なのだ。

 

私は初めての飲食店を訪れた際、なるべくその店の定番やイチオシを食したい。

だから、初回の訪問時にはプレーンに近そうなメープル味を注文した。

 

フォークを入れた瞬間に、スフレチーズケーキを食する時と同じく「シュワッ」という音が響き、それだけでもう胸キュン。

一口食べると、瑞々しささえ感じる水分量のスポンジにさらに感動。

 

”手作りシフォンケーキ”なんていうと、どことなく素朴でパサついたケーキを想像していたけれど、全く裏切られた。

それでいて、甘さはほとんど顔を出さない。

(ほう、それでは仲睦まじく寄り添っている、このホイップクリームの出番かな?)

と、クリームを絡めて食べてみたものの、おや、クリームもそれほど甘くない。

最後にコーヒーを一口含んだ瞬間、すべての答え合わせが行われた気がした。

 

「コ、コーヒーが一番甘い……だと……!?」

 

ブラックコーヒーなのに、ものすごく甘く感じて驚いた。

これはたまたまなのか、計算し尽くされているのか、それとも私の体調の問題なのか…。

何が理由かは分からなかったけれど、ひどく感動したのだ。

 

そんな衝撃の初回訪問を経てからの、二度目の訪問。

少し冒険してみようと思い、メニューに目をやると『甘夏のシフォンケーキ』という文字が。

 

今日は外の日差しも強く、まさに初夏を思わせる気温。

(一足先に、夏…感じてみますか。)

 

私は意気揚々と、甘夏のシフォンケーキとアイスコーヒーを注文した。

 

間もなくアイスコーヒーが到着し、しばらくすると、ちょこんとホイップクリームが添えられた二切れのシフォンケーキも到着した。

まずはアイスコーヒーで口の中をフラットな状態にし(ならない)、続いてシフォンケーキにフォークを入れる。

再びあの「シュワッ」という音が耳を駆け、脳内に幸福の風が吹いた。

そして口に運んだ私は…

 

思わず静止し、首を傾げた。

 

「おや…?」

 

もう一口、食べてみる。

 

「むむ…?」

 

はて、甘夏は何処へ。

 

柑橘系のケーキというと、オレンジピールのように実体としてケーキの中に香りと味の主が存在しているものだと思っていたけれど、いくら舌先で捜索活動を繰り返しても見つからない。

もしかすると、果汁を生地に混ぜているのか?ほんのり生地が橙がかっているのか?と思い、色々な角度から見てみるも…。

昼下がりの窓際の席、シフォンケーキもふかふか日光浴をしていたので、正直西日のせいで色の判別は付かなかった。

「それでは!!」と、思いっきり鼻の穴を広げて空気を吸い込んでみたが、柑橘らしい香りは微塵もしない。

 

(もしかすると…。本当にもしかすると、ここには甘夏さんはいらっしゃらないのかもしれない…。)

 

そう悟り、すんなり甘夏を諦めて、ほぼプレーン味と思われるシフォンケーキをもふもふと食べた。

 

たとえば初めて訪れたケーキ屋さんで甘夏ケーキをテイクアウトして、期待に胸を躍らせながら食べた時に、一切甘夏の味も香りもしなかったら…

もう、二度とそのお店に足を運ぶことはないかもしれない。

 

でも、この喫茶店にはきっとまた何度も訪れると思う。

 

それほどまでに、初めて訪れた時の感動の記憶、居心地の良さ、そのすべてが私の心にベールを作り、チクリと胸を刺す疑問を飲み込んでしまったのだ。

 

それに、もっと正直に言ってしまおう。

私は特に甘夏が好きなわけでもない。

そうだろう?私よ。

スーパーで売っている甘夏を、一度でも手に取ったことはあるか?

 

答えは「否」。

らば、これは私には必要のない選択肢だったんだ…。

 

「甘夏のシフォンケーキを頼んだのに、甘夏の味が全然しなかった。」という、一行で済んでしまうはずの感想を、色々な理由をつけて一人劇場を行い、無意識のうちに庇っていた。

私はこうして、一度信頼感や好意が生まれてしまうと、大概のことは何としてでも許そうとする思考回路があるらしい。

 

「もう、次はないんだからねッ!」

と、頬をぷっくり、唇を尖らせながらも、その先を見つめる目はトロンとしているのだ。

 

……あれ?恋じゃん。

 

あとがき

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でもいつかガッツリ甘夏シフォンも食べてみたい。

 

漫画まとめ


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短編まとめ

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